シンポジウム82:不安症、物質使用症、摂食障害を支持的精神療法で治療するには、何が必要か?
6/24 8:30から10:30 E会場
不安・強迫における支持的精神療法・動機づけ面接とは?ランダム化比較試験におけるプラセボ反応から
Motivational Interviewing for Anxiety – Lessons from placebo responses in Randomized Controlled Trials
原井宏明
私の精神療法に最も影響を与えたものはプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)の経験である。今までにプラセボで治療した患者は50人を越える。パニック症ならプラセボ群の半数以上の患者が寛解することは専門家なら知っている。私は行動療法家でもあり自分の治療成績がプラセボより上か下かを意識する。もし、プラセボより下なら、私を患者を悪化させたと言うべきだ。そして上か下かは、小さなちょっとした、しかし重要なタイミングでのやりとりで決まる。
パニック症の治験での仮想事例を例示する。治験中は抗不安薬は禁止である。ある夜、時間外に患者が電話をかけてきた。たまたま私が電話をとった。治験開始後5週目である。ひどいパニック発作が起こったので、前医でもらっていた発作止めの抗不安薬を飲んでもいいか?と聞いてきた。私は、構わないが、それでは治験を止めることになる、と伝えた。「発作に耐えられそうにないんです」。患者の不安を聞き返した。今度の発作が今までで最高にひどいと思っているらしい。しかし、パニック発作だとわかっていて、薬を飲む前に電話で相談している。このことを誉めた。「でも、やっぱり治験も続けたいんです、ここまで発作止めも飲まずに頑張ってきたし」。
治験を継続するか、抗不安薬を飲むかは本人の選択だと伝えた。患者は治験を続けることを選択した。その後、発作は起こらず、10週後に薬をやめ、その後も再発はなく、終結した。パニック症は治ったのである。今も思う。その夜に患者が電話をかけたとき、誰も電話を取らなかったら、あるいは他の医師が出て、抗不安薬を飲めと指示したら?もしそうなったら、患者は治験を中止し、抗不安薬依存になり、今も受診しつづけているだろう。
動機づけ面接のスタートはRCTにおける統制群としてである。介入群としての認知行動療法に対する対照群がMIだった。言い換えれば、非特異的な精神療法-支持的精神療法と言ってよい-の効果を見出したプロセスがMIである。仮想事例のやりとりをMIの視点から解説する。