原井宏明 (2005) 非対面心理療法の方法論

出典:岩本隆茂 & 木津明彦 (編), 非対面心理療法の基礎と実際―インターネット時代のカウンセリング (pp. 23–36). 東京: 培風館.(絶版)

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草稿

はじめに

ひとりひとりの個人が抱える悩みや,できることは人間が誕生した時代からそうは変わっていない。心理療法は音声言語が生まれたときからあるだろうし,非対面心理療法は文字が生まれたときからときからあるだろう。郵便が始まったときから通信教育や遠隔医療があるだろう。それに対して,情報伝達の技術の進歩は急速である。応用と普及の速さは他の技術の進歩とはかけ離れている。認知行動療法が日本に紹介されてから半世紀がたつが,医療現場に普及したとは言えず,精神分析はいまだに臨床の主流である。一方,携帯電話は数年間で急速に普及し,一世を風靡したポケベルは今では跡形もない。

情報技術,ITは今の言葉だが,いつまで使えるか分からない。いまある技術や応用に対する効果の評価はこれからであり,評価がすむころには陳腐化した技術になっているだろう。そして,これからもさまざまな技術や応用が生まれ,そして消える。整理はつきそうにない。

この章では,これらの技術,応用について分類を試みる。医療における情報技術は,医療情報学(Medical Informatics)と呼ばれ,技術開発と応用が活発な領域である。応用の中にはサービス提供者[1]を対象にしたものもある。ここでは心理療法だけでなく,これらの応用についても言及することにする。つぎに,これらのさまざまな技術に共通して見られる方法論について考察する。

分類

l  分類の方法

最初に,医療関連行為について分類してみる。産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為ワーキンググループがまとめたものである(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/iryou/dai7/7siryou6.pdf)。

  • “医行為”
    「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,または及ぼす恐れのある行為」あるいは「医学上の知識と技能を有しないものがみだりに行うときは,整理上危険がある程度に達している行為」を指す。
  • “医行為”以外の医療関連行為
    医師が行うことも想定されるが,医師以外のものも行うことが可能であって,医療と何らかの関連を有する行為(医行為と連続的に行われる行為,技術的内容は同じであるが,施す相手などに応じて医行為となったり医行為に当たらないとされたりする行為,医行為を実施するために必要なもの(医薬品・医療機器)を製造・提供する行為)を指す。

最初の,“医行為”については,医師法20条(無診察治療などの禁止)にて,「自ら診断しないで治療したり,診断書や処方箋を発行してはならない」とされている。現行の法規制下では,対面を伴わない“医行為”は違法であり,非対面療法については,“医行為”以外の医療関連行為,であることになる。非対面心理療法の分類とは,言い換えれば,“医行為”以外の医療関連行為の中で,情報機器が使用できるものを分類することになる。これらを分類する方法としては次のように考えられる。

  • 利用の目的や対象による分類
    ウェルネスを目的としたものがある。本来は対面が望ましいが,距離などのために非対面を利用する場合がある。情報技術を用いた医療関連活動の中では,医療提供者を対称にした情報提供も重要な領域である。
  • 対面と非対面の併用・コミュニケーションによる分類
    非対面の方法を,対面で行う心理療法の補助として用いる場合がある。アセスメントや対面で行う治療の前段階などでよく用いられる。提供者と消費者との間に双方向のやりとりがあるもの,一方的なものとがある。またやりとりのタイミングによっても分類される。まったく一方的なものは,セルフヘルプマニュアルに相当する。この中でも,提供者と消費者が互いに一対一で情報をやりとりするもの,一対多であるもの,内容が公開されているもの,すべてが匿名でやりとりされるもの,提供者と消費者という立場の違いがないもの,などに分けられる。インターネットの進歩と普及は,それまでの情報技術では不可能だった匿名や公開でのやりとり,記録の保持,検索を容易なものにした。インターネットを用いた双方向型の情報のやり取りについては詳しく分類することにする。
  • 使われるハードウェアや媒体による分類
    コンピュータ,PDA(パーソナルデータアシスタント)などがある。メディアはさまざまで印刷物からオーディオカセット,CD-ROM,DVD,インターネットからのダウンロード,などがある。最近は携帯電話が重要な役割を果たす。この領域の進歩は著しく,収容できる内容も豊かになったが,古いメディアの利便性もある。書籍は価格の安さ,普及の広さ,電源がなくてもどこでも参照できるユビキタス性[2]により,駆逐される兆しはない。VHSビデオテープはDVDに駆逐されそうである。対象もさまざまで消費者も患者であったり,提供者自身であったりする。書店や通信販売,ダウンロード販売の形で,金銭の収受を伴うことがある。ここで重要なことは,メディアの種類ではなく,スタンドアロンかネットワークに参加しているか,双方向の情報のやり取りや結果のフォローアップがあるかどうか,伴う場合に個人情報を扱うかどうかである。
  • 経済的分類;料金など
    医療行為の中で行われるもの,医療保険がカバーするもの,それ以外のもの,無料で提供されるもの,などがある。また経費を徴収するタイミングも最初にすべての経費をとるもの,サービスを利用するたびにとるものなどがある。
  • 統合された全体的なサービス
    プロジェクト全体に特定の名称やブランド名をつけ,対面心理療法やさまざまな情報技術を統合して,提供するサービスがある。欧米では公的機関が税金や健康保険料をもとにして医療情報を提供するものがある。イギリスの公的健康保険システムであるNHSなどが提供している。日本でも営利企業や団体が広告収入や製品販売,あるいは会員制をしき会費を徴収することで経済的に成立しているものがある。

利用目的や対象による分類

心理療法においては,しばしば,内容や対象,提供するサービスについて個人の特定と秘密の保持が必要である。アメリカ心理学会のサイコロジストのための倫理綱領および行動規範{{C:\harai\dat\REF\e-therapy.ref #5;  Anonymous, 1996}}の中の倫理基準の基本的な原則は次のようにまとめることができる。1)秘密保持,2)苦痛や害を及ぼさない,3)過大な宣伝や効果の約束をしない,4)治療方法の選択や研究についてインフォームドコンセントを得る,5)記録,である。疾患に苦しむ個人を対象にした場合はこれらの原則は守らなければならない。

“医行為”は対面であることが前提である。対面であることの最大のメリットは提供者と消費者ともに個人の特定が簡単にできることである。従って詐欺行為が難しい。対面である場合は,固定した施設で行われ,相手の実在がわかり,受付窓口があり,事務員がおり,料金の徴収も分かりやすい。消費者[3]からのクレームもその場で分かる。このため,“医行為”との併用が必要な場合はかならず,非対面は対面のサービスとの併用になる。他にも個人の特定と秘密保持が必要な場面においては非対面心理療法を用いる場合は,対面のサービスとの併用になる。これは,弁護士などによる相談業務の場合と同じである。

一方的な情報提供,教育,啓発活動やウェルネス[4]を目的としたサービスでは秘密保持などの原則は当てはまらない。これを“心理療法”と呼ぶかどうかは別として,情報機器の進歩に伴ってもっとも活用が広がった分野である。インターネットが従来のメディアや情報技術を上回る最大の利点は,匿名のまま大量の情報を,物理的な距離を越えて,不特定多数に発信できることができることである。当初はHTMLなどのプログラミング技術とサーバーの利用料金が垣根となっていた。最近は無料のWEBポスティングサービスの増加,安価な常時接続の普及,インターネットと安価で簡便なHTML作成アプリケーションの普及により,現在の垣根は情報発信者の文章力そのものといえる。匿名の草の根的個人サイトから,新聞や本にも取り上げられるようになったものもある。使われている技術も,さまざまであり,通常のホームページ,チャット,掲示板,日記,ブログ,メーリングリストなど多様なサービスが利用されている。消費者が消費者を対象にして開設したサイトは,インターネットの普及によって始めて広がることができるようになったといえる。自宅から一歩も出られない恐怖症の患者が自身の疾患についての啓発を目指したサイトは,ネットがなければ考えられなかっただろう。こうしたサイトの例として,強迫性障害サークル <ハーモニー>,http://melody920.hp.infoseek.co.jp/ などがある。

個人情報の保護が必要な内容の疾患について,医療提供者を対象にした情報機器の活用は,遠隔診療や診療支援,テレメディシン,電子カルテなどの名称で呼ばれる。その多くが,公費による研究費によって実験的に行われている。一方,公的資金がなくなると,他には収入源がなく,継続できなくなることがよくある。新宿医師会による“ゆーねっと”のように巨費を投じた上で実効性をあげないまま撤退し,税金や医師会費の使い道として疑問符がつけられるような例もある。こうした事情は,大分県梶原病院の梶原賢一郎医師のページにhttp://www.ktarn.or.jp/kurume-u-hp/kenchan.html に詳しい。公的機関や企業が加わらずに,草の根の医師から始まり,地区の医師会の事業となったものに,ORCAプロジェクトがある。http://www.kyoto.zaq.ne.jp/fushimi_ishikai/orca/index.htm

個人情報の保護が必要な内容であるが,非対面のみで行われているものが,心の電話やオンラインカウンセリングなどである。電話は歴史が古く,一定の基準が成立している。オンラインカウンセリングはパソコン通信の時代からあった。このころは,利用者が限られ,ネチケットと呼ぶマナーも守られていた[5]。近年のインターネットの普及に伴い,利用者が増え,また形態も,一対一の電子メールから,メーリングリスト,掲示板,チャット,メッセンジャーなどに広がっている。利用者の特定を要求するもの,匿名であるもの,商業利用を目的としたもの,とさまざまであり,今も広がり続けている。

表 1 利用目的や対象の分類

  対象
提供者 消費者
目的・扱う情報 情報提供・啓発・教育 専門書,学会,業界新聞,講演会,薬品会社のMR活動,公的機関のサイト,PubMed,治療ガイドライン,団体・個人のサイトなど 一般書籍,テレビ・ラジオ放送,新聞記事,市民講演会,薬品会社のDTC[6],消費者が開設したサイト(自助グループやサポートグループなど)
ウェルネスなど個人情報保護が不要なもの 上記と同様だが,健康食品や医療機器,リハビリ機器を製造する企業によるものが多い。 健康増進やダイエットのためのセルフヘルプマニュアルなど
個人情報の保護が必要な内容の苦悩,疾患 医療情報サイト

遠隔診療や診療支援,テレメディシン,電子カルテなど

心の電話,オンラインカウンセリング,掲示板,チャットなど

 

 

 

表 2 利用目的や対象

  分類 説明
非対面のみ 啓発本

書籍などによるセルフヘルプマニュアル

治療ガイドライン

使用されるメディア,対象は幅広い。一方向性の情報提供が主であるが,電話やメールによる双方向の情報のやり取りを補助的に行って効果を高めたり,治療プログラムの効果評価を行うことがある。個人情報は扱わず,疾患の診断や評価は行わない。 第7章の足達らによる“健康達人”

㈱カルディアによる”Vivian Noteシステム”  http://www.so-net.ne.jp/familyclinic/vivianenote/

電話や手紙など相談 双方向のやり取りを伴う

個人的心理開業による相談もある

精神保健福祉センターの相談電話

いのちの電話

オンラインカウンセリングのサイト 双方向のやり取りを伴うインターネット

オンラインセラピー,インターネットカウンセリング,メールカウンセリングなど名称はさまざまである

日本オンラインカウンセリング協会

http://www.online-counseling.org

医療関係者対象のサイト 草の根的個人サイト,営利企業による広告を伴うサイト,公的機関によるサイト,など。

オンライン医学図書館を含むような大規模なサービスに成長し,メガサイトと呼ばれるものがある。

消費者への情報提供には制限を設けないが,提供者への情報提供にアクセスするためには登録・認証を受ける必要があることが多い。公的機関の場合は所在地の国民を対象にしているが,インターネットの利用には国境はない。

精神医療関係のメーリングリスト(List serve)

https://www.j-psych.net/mailman/listinfo/j-psych

薬品会社や医療関係メディア産業によるサイト

So-netウェルネス http://www.so-net.ne.jp/wellness/

医療研修推進財団http://www.pmet.or.jp/

消費者が開設したサイト 匿名の草の根的個人サイトから,患者団体によるものがある いのたまメンタルヘルス会議室 http://www.inotama.jp/

OCDの会 http://www.geocities.jp/kokopelli1968jp/index.htm

対面と併用するもの 受診した消費者に対する補助的コミュニケーション メールに限らず,電話,ファックス,手紙など種々の方法が用いられている。個人が特定された一対一のコミュニケーションである。

対面にて診断が確定された後の治療を非対面で行う治療パッケージがある。

第10章 電子メールによる摂食障害患者への治療支援,など

第11章インターネットを介した行動療法(強迫性障害に対するBT-Steps,恐怖症に対するFear Fighterなど)

受診前の消費者に対する補助的コミュニケーション 個人情報のやり取りはない。個人情報が必要になれば受診を勧める 治療機関が開設しているサイトに表記された連絡先への相談
診療支援 提供者に対する支援を別の提供者が行い,専門医へのアクセスを改善し,プライマリケア医療の質を向上させる 第14章 テレビ電話を用いた精神科診療及び精神保健福祉相談
インターネット上の患者会,オンライン自助グループ 特定の患者のみに知らせた非公開掲示板,メーリングリスト  

 

 

 

消費者の方法論

インターネットによる情報提供のメリットは,1)アクセスが良い,安い,早い,どこでも,2)豊富,3)Googleなどの優れた検索エンジンがあり,探しやすい,4)提供者や公式の情報だけでなく,消費者自身による匿名情報もあり,多角的な情報を得られる,である。多くの消費者がインターネットによる情報提供によって自分に必要な医療情報を得るようになった。の対面療法には,利点がある。それに対して欠点や害もある。こうした情報を見分ける技術を“メディアリテラシー”と呼ぶ。示す。消費者に対するガイドラインを日本インターネット医療協議会が作っている。http://www.jima.or.jp/userguide1.html

オンラインカウンセリングの方法

非対面心理療法は表 2で示しただけでも多様である。対面と併用して情報技術が用いられる場合は,基本的な方法論は対面の場合と変わらない。情報技術の具体的な利用方法については種々の工夫がみられるが,これは本書の各章に譲ることにする。

情報技術,特にインターネットの発展と普及に伴って新しく生まれた形態が,非対面のみで成立しているオンラインカウンセリングである。オンラインセラピー,インターネットカウンセリングなどの名称で呼ばれる,この方法についてこれから述べることにする。

l  オンラインカウンセリングの形態

どのような心理療法であっても最初は,消費者が提供者を探すところから始まる。オンラインカウンセリングの場合は,消費者がサーチエンジンやリンクをたどって提供者のサイトに到達することである。そして,そのサイトに明記されたメールアドレスや相談掲示板への書き込みが行われる。サイトはさまざまであるが,その分類を示す。

表 3 オンラインカウンセリングサイトの種別

提供者の特定 公開・非公開 種別 説明
提供者が明示されている 相談内容は非公開 オンラインカウンセリング 消費者が提供者にメールや非公開掲示板を用いて相談する。チャットやメッセンジャーも用いられる。提供者の写真や経歴を明示していることがある。利用について登録が必要。質問の書き込みや回答を得ることについて料金を取る。お試し無料サービスもある。オンラインセラピー,ウェブカウンセリング,サイバーセラピー,e-therapyなどと呼ばれる。 こころのマッサージルーム Peacemindなど
相談内容は公開 エキスパートに聞く掲示板 提供者のプロフィールが明示されている。消費者は匿名であり,登録不要で無料 筆者のサイトの相談掲示板
提供者が不明 相談内容は公開 匿名掲示板 内容保障はない。医療受診中の消費者の生の声が分かることがある。

書き込み者について,同一人物であるかどうかは特定できるようになっていることが多い。

“2ちゃんねる”のメンヘル板

 

オンラインカウンセリングについて提供者が守るべきガイドラインがhttp://www.hon.ch/HONcode/Japanese/に示されている。

 

l  オンラインカウンセリングの方法論

非対面のみの心理療法の限界は,提供者からはまったく手出しができないことである。消費者が自身の問題を解決するために行動や資材,援助者は消費者が自分自身で行動を起こし,用意しなければならない。そもそも消費者が自ら行動を起して,自分の問題を書き込み,提供者の質問に応じ,さらに問題を書き込まなければ,展開しない。対面の場合であれば,消費者がまったく行動を起さない場合にも,提供者には行えることがあるが,非対面では提供者にはなにもできない。オンラインカウンセリングの目標は消費者自身が適切な問題解決行動を起こすことにある。逆に言えば,提供者が問題を解決することはありえない。このような場合に何が可能かを具体例を示して論じることにする。

l   “エキスパートに聞く” サイトにおける方法論

メンタルヘルス相談の具体的な例として,筆者個人が開設している相談掲示板を示す。http://hpmboard1.nifty.com/cgi-bin/thread.cgi?user_id=PFB00334

この掲示板の開設目的は,筆者個人が開設しているサイトが強迫性障害についての情報提供サイトとして,よく知られるようになり,消費者からの相談メールが多くなったためである。このため,メールの返事に手間を取られるようになった。相談メールのほとんどは,#1 お勧めの病院を教えて欲しい,#2 家族や知り合いが病気のようだが,受診を拒否している,どのようにしたらよいか,#3 現在治療を受けている,うまくいっていないがどうしたらよいか,である。これらについて,個別に回答することは考えられなかった。それは,筆者の業務の負担を著しく増やすこと,また個別のメール相談を有料で行うことは国立医療機関ではありえないからである。このため,個人宛メールの返答として,掲示板を参照するようにさせた。#1の相談に対する答えは,掲示板の過去ログを参照すれば,分かる仕組みになっている。現在では,掲示板での質問のほとんどは,#2と#3であり,強迫性障害とうつ病,そのほかのストレス関連疾患に関連したものである。無料で行われる“エキスパートに聞く”タイプの相談掲示板になる。1)医師法に触れる行為,すなわち診断やアセスメントは行わない,2)医療機関を受診中の消費者から相談の場合には,医療過誤や法令違反が明白な場合を除いて,受診先の治療方法を評価・批判することは行わない,を原則としている。また,できるかぎり,掲示板を閲覧している不特定多数の人の参考になるようにすることを目指している。

いままでに,削除対象になったメッセージは,消費者と思われる人物からの特定医療機関を名指した中傷メッセージが1度,ロボットによると思われる広告メッセージが数回程度である。人為的な“荒らし”はない。消費者の一人が,自身の実名や職業,現在受診中の医師を明記し,そして勤務先での処遇について糾弾的な内容を書き込むことがあった。しかし,荒れることはなく経過している。

筆者の相談掲示板に書き込まれたある事例を示す。この掲示板の内容は最初からネット上で公開されている。

<パニック障害とうつ病と結婚> ゆう

北海道の20代後半女性です。4月初めに初めてパニック発作を起こし、4月末に2回目の発作。それから少しのことでも発作を起こすので5月初めに心療内科を受診。パキシル10gを毎日夕食後飲んで、今は全く発作がありません。

5月に結婚の予定がありました。彼は3月に親に伝えたのですが、彼の母親が3月に入ってからうつ病にかかっていました。彼の父親は母親が直ってからとの事で6月まで待っていましたが、うつ病は何年も根気よく直すものだと私も彼も私の親も思っていたので、家を探し、先に生活を始めると彼の父親に伝えましたが、看病に疲れきってしまった彼の父親は彼の母親の事が面倒だから私と彼に看てくれと頼んできました。そうじゃないと結婚は母親が直ってからだというのです。

私の彼は父親に任せられないと母親と一緒に住むと言っています。彼の母親は薬を大量に飲んで救急車に運ばれたり、私たちの結婚を聞くとテーブルをひっくり返したり、飛行機のチケットを勝手に取り東京へ飛んでいき捕まったり、毎日死にたいと泣いていて、薬の副作用か髪が抜けているそうです。うつ病の原因は、20年ほど朝5時から夕方までパートで働いていたが、去年癌で手術し、パートを辞めたことが考えられます。

私は一緒に住む自信がありません。パニック発作が直ってきたのに、また起きそうでこわいです。逆に一度心療内科に通い、直ってきたことをお母さんに伝える事がお母さんに勇気付けることができるのかとも考えています。うつ病のお母さんと、一度も会ったことのないパニック障害の私がやっていくことができるのか、アドバイスをお願いします。

<Re: パニック障害とうつ病と結婚> 原井

彼の母親と一緒に暮らすのは大変なことが起きそうだ,と心配だということですね.そして,彼は母親が心配だから母親と一緒に住むと主張しているのですね.

彼はどのようにしたらよい,とおっしゃっているのですか?

<Re^2: パニック障害とうつ病と結婚> ゆう

彼の実家はJRで3時間程の場所で、田舎です。私たちの住んでいる所の病院のほうが進んでいると彼は考えています。看病を放棄してしまっている父親の元にいても治らないから、母親をこっちに呼び寄せ入院させ、治ってきたら一緒に住み、完全に治ったなら父親の元に返すことが理想だと思っています。私が不安だと伝えましたが、そんなこと言わないでがんばってみようと言われます。

結婚を延期し、彼の母親が治るまで待つべきか、先に結婚し母親を呼び寄せるべきか迷っています。うつ病になった彼の母親は一度も会ったことのない私がずっとついている事に嫌な思いをしないのでしょうか。彼の父親がついていることが一番理想だと思うのですが・・・。

<Re^3: パニック障害とうつ病と結婚> 原井

まとめると,

  1. 会ったことがない,配偶者ももてあますような病気をもつ,50台の女性と一緒に住み,また治療に協力すること,には気が進まない。
  2. 彼が母親について考える計画や見通しには,ゆうさんは同意できない。
  3. 彼とは一緒に住みたい。なんとか彼と意見を一致させたい。

ということですね。

<Re^4: パニック障害とうつ病と結婚> ゆう

なんだか人生相談になってしまい、申し訳ございません。

聞きたいことは

  1. うつ病で夜の徘徊、薬を大量に飲む、東京まで勝手に行ってしまう、死にたいと泣く、という症状は、どの位治るまでにかかるのでしょう。
  2. うつ病の患者さんは、知らない人に看病されることで、悪化したりしないのでしょうか。
  3. 世間体を気にし、内科に通院させていて悪化する一方なのですが、精神科に通院させた方がいいのでしょうか。

ということです。

医学的にアドバイスをお願いします。

そのうえで、自分のパニック障害と付き合いながら看ていけるものか判断したいと思います。

長々とすいません。

<Re^5: パニック障害とうつ病と結婚> 原井

ゆうさま

質問をまとめていただきありがとうございます.

”医学的にアドバイス”とは,医師が患者を直接診察した上で行うことを指します.

上げられた質問1~3については,彼氏と彼氏のお父様が担当医からお聞きになっていることと思います.

<Re^6: パニック障害とうつ病と結婚> ゆう

そうですね。

自分で悩んでいてもしょうがないですね。

自分も彼の実家へ行き、お医者さんと直接話しをしてきます。

彼の親も彼も病院へまかせっきりで何も聞いてくれないので・・・。

どうもありがとうございました。

 

この掲示板のやり取りのなかでは,命令や指示,警告,議論,解釈を避けている。また,最初からアドバイスや指示を出すことをしないようにしている。情報提供も明白なことのみ単純に述べるようにしている。1)聞き返し,2)オープンエンドの質問,3)消費者の気持ちや考えを確認・是認する,4)サマライズを行い,その中で消費者の話の矛盾を引き出す,5)解決については消費者自身で決めるようにさせる,を行っている。

これは,動機付け面接(Motivational Interviewing) {{C:\harai\dat\REF\benzodiazepine1.ref #66;  Miller & Rollnick, 2002}}の原則と同じである。この方法は患者が自ら積極的に問題に取り組み,変化の決意をすることを援助できるようにデザインされたアプローチである。

このやり方によって,次のような利点がある。1)権力闘争を避けることができる,2)消費者自身が決断する,3)変化の実行責任は消費者自身にある,4)変化の過程に対して消費者がより強くかかわる,である。

この原則は,ネット上の掲示板での相談に大変有効である。ネットでの相談は,困っているから,どうしたらいいか分からない,だから教えて,という相談になりやすい。自分がどれだけ困っているについては雄弁に語っているが,問題解決に必要な情報,たとえば,いままでにどのような問題解決を試みてきてか,何が変わると困らなくなるのか,が書いていないことが多い。相手を特定できない匿名の相談では,提供者が何らかの活動を起こすことはありえない。消費者自身が自分で問題を特定し,自分で解決する他はない。対面で行われる一般的な医療では,悩みがある人は,苦しんでいることを訴えれば,それでよく,それに対して専門家は一方的に助けを施す,というスタイルが普通である。ネットでの相談ではそのようなやり方は取れない。

最後に

非対面心理療法の方法について,現時点で考えられることをまとめた。オンラインカウンセリングについてはとくに詳しく述べた。具体的なインターネットを利用する場合の技術的課題については触れなかった。基本的な課題は,書き言葉の技術である。ネット利用の問題はさまざまだが,それらの中でよく見られる問題が“なりすまし”や“荒らし”,“コピペ”である。逆に,話し言葉を用いないやり方は,視聴覚障害者にとって,心理療法を受けられる唯一の方法である場合がある。

これらの課題については,また別の機会に譲ることにしたい。

[1] 提供者,プロバイダー(Provider)は患者やクライエントの対義語であり,心理士や医療関係者などサービスを提供する側を広く指す。

[2] ユビキタス ユビキタスとは、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした、「(神のごとく)遍在する」という意味で使われている英語である。携帯電話の普及は,コンピュータやインターネットにとって,「人間の生活環境の中にコンピュータとネットワークが組み込まれ、ユーザーはその場所や存在を意識することなく利用できるコンピューティング環境」に近づくことになった。

[3]対面療法であれば,クライエントや患者である。非対面の場合は,さらに広く,ユーザーやコンシューマーと呼ばれる。提供者が場面によっては消費者になる。情報技術を用いた医療関連の活動の中では,医師に向けた情報発信を狙ったサイトが数多い。

[4] ウェルネス(Wellness)は,病い(Illness)との対義語である。通常の医療は疾病による苦悩をとることを目的にしており,よりよく生きる,疾病を予防する,生活を改善することは対象にしない。心理療法の対象は疾病にとどまらない。健康増進を目的とした活動をウェルネスと呼ぶ。

[5] ネチケットとは,ネットワーク・エチケット(network etiquette)」を一語にまとめた造語。インターネット等のネットワークを利用する人が守るべき倫理的基準。電子メールやメーリングリスト、WWW上の電子掲示板、チャット、NetNewsなどを利用する際に守るべき最低限のルールをまとめたものである。特定人物の中傷や差別的な用語を用いないなどの一般社会でも通用する常識的なエチケットのほかに、チェーンメールの禁止や大容量メール配信の禁止、文字コードの制限など、ネットワーク特有のものもある。インターネットの普及が加速し、商業利用が進んだ結果、ネットを利用した犯罪やトラブルが顕在化し、行政による介入や法的規制が必要だという声もある。http://www.cgh.ed.jp/netiquette/rfc1855j.html にガイドラインがある。

[6] DTCとは,Direct To Consumerの略 従来,薬品会社が広範な営業活動を行う場合は,直接消費者に向けて,栄養ドリンクなどの医師の処方が不要な薬剤(OTC,over the counter drug)を宣伝することが中心であった。医家向けの薬剤や製品(医師の処方箋が必要なもの)については,提供者に向けて限定的な営業を行っていた。近年は,医家向けの薬剤についても直接,消費者に向けて啓発を行うようになった。抗うつ薬や生活機能改善薬について行われている。これを,DTC活動と呼ぶ。

 

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