原井・金田 2019 現代の不安の理解とその介入方法 行動理論の立場から  草稿

はじめに

メンタルクリニックを訪れる患者の訴えの中でも「不安」は最も多いもののひとつである。不安は現代的なものでもある。不安は日常的なものである。大辞林(三省堂)では不安とは、

  • 気がかりなこと。心配なこと。これから起こる事態に対する恐れから、気持ちが落ち着かないこと。また、そのさま。 「 -がつのる」 「 -な一夜を過ごす」
  • (哲学)〔ドイツ語 Angst〕 人間存在の根底にある虚無からくる危機的気分。原因や対象がわからない点で恐れと異なる。実存主義など現代哲学の主要概念。
  • (心理学)漠とした恐れの感情。動悸(どうき)・発汗などの身体的徴候を伴うことが多い。

不安という言葉を使うとき、自分が3つのどの意味で使っているかを意識している人は少ない。患者も治療者も同じである。心理学でいう不安にも多義性がある。本特集の企画者によれば不安とは、

1)漠然とした未分化な恐れの感情で、2)未知なもの、変化、危機的状況に対して感じる感情で、3)内的葛藤、その人のあり方と関連し、4)ライフサイクル、人生の転換期と関連し、5)生存にとって必須で、有益なもの(生存本能/危険信号)であり、6)不安は両義的で二つの側面を併せ持つ。

人を内省的とし、その人の変化、成長を促すが、逆に回避・問題行動を引き起こし、問題を紛糾させ、病態を遷延化させる、などである。

心理学事典(有斐閣)から引用する。

自己存在を脅かす可能性のある破局や危険を漠然と予想することに伴う不快な気分のこと。漠然とした不安が何かに焦点化され対象が明確になったものを恐怖(fear)というが,行動理論では,両者を明確に区別することはしない。

一般的には,恐怖が特定の脅威事態に直面した時に生じる刺激誘発型の情動であるのに対し,不安は予感・予期・懸念といった個人の認知機能に大きく依存した認知媒介型の情動であるといえる。また,不安は信号や手がかりを通じて未来の危険を現在に手繰り寄せることによって発生することから,時間的展望のなかにおいて生じる現象であり,本質的に未来志向的な情動であるといえる。

不安についての見解を大別すれば,精神分析的不安論,行動理論的不安論,認知論的不安論の三つに分けることができる。

本特集の構成から考えると企画者も力動学派と行動理論派、認知理論派の3つに分けられると考えているようである。それぞれの学派における不安のフォーミュレーション(事例の理解)とそこへの介入が多様であることを前提にしている。

ここでは行動理論の立場から見た不安を整理してみよう。行動理論の立場―連合学習理論やレスポンデント条件づけといった概念を日常的に使う人たちとる立場―で言う不安は大辞林で言う不安とはもちろん、精神医学で言う不安やカウンセリングで言う不安とはどう違うのだろうか?

不安の概念を整理する

まず学派を整理する

不安の概念を整理する前に、いったい学派同士がどう違うのかを整理する必要があるだろう。精神医学と一般的な臨床心理学、行動理論では不安をどう扱っているのだろうか?全体の傾向についてそれぞれを代表する事典から引いてみることにしよう。事典としては精神医学事典(弘文堂)(1)とカウンセリング辞典(ミネルヴァ書房)(2)、行動療法事典(岩崎学術出版)(3)、行動分析学事典(丸善)(4)を取り上げた。行動理論の中でも行動分析学はいわば最左派である。認知行動療法ならば方法論的行動主義を容認するが、行動分析学は徹底的行動主義(Radical Behaviorism)と呼ばれるほど、ラジカルである。認知理論家はたとえばThought-Action Fusion(TAF)(5)のような構成概念を使って強迫症の精神病理を説明しようとする。行動理論家は心の中の特定の出来事を説明するために特別な概念を作り上げることをしない。人でも動物でも同じ原理、すなわち行動随伴性によって説明できるとする。知覚や情動はもちろん、意図や選択、認知や記憶も文脈と刺激・行動・結果によって決まると考える。

4つの事典で不安・状態・行動という言葉が何回出現するかをカウントしてみた。図1はその結果を表にして、グラフ化した。ラジカルな立場を持つ事典ではどういう結果になるのだろうか?

事典名 精神医学事典 カウンセリング辞典 行動療法事典 行動分析学事典
不安 1003 451 302 62
状態 1213 507 49 138
行動 1031 820 1567 6561

 

図1 事典別キーワード出現頻度

 

このグラフをみれば行動療法・行動分析学の特異性がはっきりわかる。精神医学は3つのキーワードの出現頻度がバランスしている。行動分析学はラジカルに行動である。行動療法事典は「不安」が増える。カウンセリング辞典は精神医学と行動療法の中間と言えるだろう。

今回の企画者の疑問は「それぞれの学派における不安のフォーミュレーションとは?」である。これをもっと詳しくすれば次のようになるだろう。

  1. 不安のフォーミュレーション:不安は多義的である。体の状態であることもあれば、思考やイメージについてであることもある。不安にまつわる表現は多い。もやもや感や心が晴れない感じ、戸惑い、緊張感、イライラ感など。行動理論ではどこに注目するのだろうか?
  2. 正常と病的不安の区別:不安は危険を避けるなど、自然選択上有利な特性であるようにみえる。戦場など、命を危険にさらす場所でも不安を感じず、大胆な行為を繰り返す人は早死にするだろう。正常な不安と病的な不安はどうやって区別するのだろうか?
  3. 一時的と継続的不安の区別:不安には自然に過ぎ去ってしまうものがあれば、ぐるぐると持続する病的な不安もある。二つの違いは?
  4. 不安に対する不安:不安に対する不安患者から「不安になることが不安」という言葉を聞く。どうとらえたら良いのだろうか?
  5. 状態と特性:心理検査には状態不安と特性不安を測定するものがある。この二つの尺度を治療ではどのように使うのか?
  6. エクスポージャーの可否:行動療法ではエクスポージャーによって、不安に馴れることで不安が下がるとされている。しかし、実際には下がらないままでエクスポージャーが終わってしまい、後から不安症状が悪化する場合がある。エクスポージャーが上手くいく場合とそうではない場合で何が違うのだろうか?
  7. マインドフルネスという言葉を良く聞く。不安に対してはどのように使うのだろうか?
  8. ヒト以外の動物でも不安をもつ仕組みを持っているのだろうか?

 

行動分析家に尋ねたら、「行動に関してあれば6581回答えられますが、不安には62回しか答えられません」と返事することになる。不安も「心」の出来事を説明するために作られた構成概念だから使う必要がない、だから「1から6の質問には答える必要がない」とつれない返事をするだろう。

質問7,8マインドフルネスと動物については事情が異なる。4つの事典の中でマインドフルネスという言葉が出現するのは精神医学事典の5回、行動分析学事典の14回である。カウンセリング辞典・行動療法事典では出てこない。動物については行動分析学事典には639回出現する。動物福祉や動物愛護、動物との共生などがトピックとして取り上げられている。つまり、行動分析学事典は人間だけのために書かれた本ではない。動物もクライエントの一人として捉えているのである。精神療法の各学派を分けるとき「人間主義的」を一つの派として立てることがある。行動分析学は人間主義的アプローチではなく、動物主義的アプローチとよぶべきかもしれない。ちなみに人間も動物である。植物ではない。

不安や状態をという言葉をめったに使わない行動理論の立場にたつ著者がどうやって不安を訴える患者を治療するのだろうか?実際の例を取り上げて考えてみることにしよう。

血液注射外傷型恐怖(Blood Injury and Injection Phobia、以下BII)

行動療法が適応になる不安症の中でも行動理論によって理解しやすい代表がBIIである。同時に、シンプルで特定的であるがゆえにBIIを知らない人にはこの病気は理解しがたい。幼少期の問題はなく、家庭も円満。社交的で苦手な人はいない。大らかでささいなことにはこだわらない性格。がっしりした体格をした好青年。非専門家からみたら不安とは全く縁のなさそうな人が職場の健康診断となると人相が変わり、逃げ回る。これがBIIである。

以下は第2著者が担当したBIIの患者の治療経過をまとめたものである。症例自体は実在しているが、個人を特定できる情報は削除・改変している。

症例 40代男性会社員

主訴:健康診断を受けられない。注射針が血管に刺さって血が抜けると想像するだけでも力が抜けて、気持ちが悪くなる。カレンダーに健康診断の予定が書いてあるのを見るだけでも具合が悪い。会社にはあれこれ理由をつけてこの10年間、健康診断をさぼっているが、とうとう会社の産業医に呼び出され、「次回の定期検診のとき、他の病院ででも良いから採血検査を受けてこい」と言われた。

病歴:中学に入学するときの健康診断で採血されたとき、突然血の気がひいてきて気分が悪くなり、倒れた。それから2,3回受けたが、いつも吐き気と頭痛が生じた。看護師から「力を抜いて」と言われて、自分でもリラックスすることに心がけたが、かえって調子が悪くなり、足に力が入らなくなって床に倒れ込んだこともあった。それから、採血が恐ろしくなり、あれこれ理由をつけて採血検査を避けるようになった。会社入社時の健康診断でも適当な理由をつけて逃げた。

このようにしてできるだけ血に関係することを避けるようにしているうちに、日常生活にも影響するようになった。テレビに健康診断や献血などの「血液」に関するもの、殺傷事件や流血沙汰のような暴力に関するものがでてくるとすぐに消すようになった。新聞は経済や政治、スポーツなどだけ見るようになり、大きな写真が載っている場合は最初から新聞を開かないようになった。ISによる処刑の報道はとくに怖かったと言う。映画鑑賞や読書を趣味にしていたが、非暴力的な内容のものだけに限っていた。「血」や「病院」などの言葉を見聞きするだけで気分が悪くなると語っていた。

一方、地震や津波、台風などの自然災害はまったく怖くなく、慌てる人をみると不思議に思えると言う。また極力、病院にかからないですむように普段から健康には気をつけている。バランスの良い食事と定期的な運動、歯磨きをしており、飲酒や喫煙はしない。

初診時のアセスメント:ベックうつ病尺度5点 Fear Questionnaire:血液外傷20点、社交不安2点、広場恐怖0点

治療経過:

セッション1 次の資料を用いて心理教育を行った。

体質的に採血をされると気持ちが悪くなる方があります。ひどい場合は失神してしまう方もあります。この体質は遺伝的なもので,原因は「血管迷走反射」(血管運動性失神反応,VVR)のためです。人は大きな血管などに傷がつくと,出血します。大量出血すると命を失うかもしれません。出血しないためには血圧を下げれば良いのです。人間の体にはそのようにして大きな怪我をしたときに血圧を下げる仕組みが備わっています。それが「血管迷走反射」です。一方,人によってはこの反射が強く出過ぎる方があります。血管に針がささった途端,血圧がガクンと下がってしまうのです。ひどい場合は,「注射」「採血」という言葉を聞いたり,テレビで手術場面を見たりしただけで反射が生じ,気持ち悪くなってしまいます。この状態は「血液外傷恐怖」と呼ばれ,不安障害の一種類になります。人間ドックで採血検査を勧められた体格の良い男性が「注射するくらいなら死ぬ!」と採血を断固拒否したり,医学生が授業で手術場面を見学するたびに,バタンバタンと倒れ込んだりするようなことが実際にあります。

血液外傷恐怖の主な症状は次のようなものです。

  • 血の気がひいてきて気分が悪くなる。吐き気と頭痛が生じる。
  • 目の前が真っ暗になり、音も聞こえなくなり,声も出なくなり,意識が遠のき,動けなくなる。
  • 顔が真っ白になる。
  • 足に力が入らなくなり,床に倒れ込む。

応用緊張:緊張して血圧を保つ

血液外傷恐怖の方に前記のような症状が起きるメカニズムは分かっていましたが,具体的な対処方法はありませんでした。血圧が下がって倒れたときに備えて寝たままで採血するぐらいしかなかったぐらいだったのです。

1987年にスウェーデンの行動療法家,オスト教授が“応用緊張”という行動療法の技法を発表しました。これは採血に使う以外の手足やお腹に精一杯力を入れることで,血液を体の中に止め,血圧低下を防止する方法です。

具体的なやり方

この方法は自分で血圧を保つ訓練です。採血を受ける前に数回は練習しておく必要があります。

  • 最初は椅子に座って,自分の手足やお腹の筋肉に力を入れて10~15秒間緊張させて下さい。両手の手のひらを合わせて押したり,膝と膝を合わせて押さえたり,腹筋が堅い板になるように力を入れるのです。頭の中がぼーとのぼせてくるまで続けて下さい。これは血圧が上がってきた証拠です。血圧計で計りながらやればもっと確実です。
  • 手足やお腹の筋肉をゆるめて,20~30秒間ほどリラックスしてください。完全にリラックスするのではなく,すぐ立ち上がれるぐらいに止めてください。
  • また力を入れて,1と2を5回ほど繰り返して下さい。

血圧が思うように上がらないようでしたら,中腰になってスクワットをする動作も有効です。この方法を身につけ,思うがままに血圧を上げられるようになれば,採血も大丈夫です。針が血管に入ってくる瞬間から手足とお腹に力を入れて,血圧を高く保つようにすれば,血管迷走反射による血圧低下を止めることができ,気持ち悪くなったり,失神したりすることを予防できます。

もしそれでも血圧が下がって意識を失いそうになったら,横になれば大丈夫です。血圧が下がっても脳に血を回すことができれば,気を失うことはありません。

血液外傷恐怖の方にとって,大事なことは,リラックスしないことです。不安や恐怖の方にはリラックスを勧めることが多いようです。血液外傷恐怖の場合には,リラックスすることがかえって失神を引き起こす原因になり,それが恐怖の理由になります。

引用元 https://www.harai.net/anxiety_and_phobia

 

さらに、スプラッター系の映画の一部や心臓手術場面、採血場面の動画を30分以上かけて繰り返し視聴するようにした。血圧および心拍数の測定を行い、実際に血圧が下がることを自覚してもらうようにした。映画の解説などに「血しぶき」などの言葉があると特に怖いようだった。一方、海外の映画で解説が「bloodshed」などとあってもこちらは特に怖くないようだった。しかし、いったん、英語の和訳を教えると、それだけで日本語の場合と同様に反応するようになった。

応用緊張を説明し、血圧が下がらないようにすれば同じ動画を見ても倒れたりしないことをわかってもらえるようにした。動画サイトで検索したものを自宅で見ることを宿題にした。

セッション2~3 応用緊張の練習と模擬針と模擬注射器を用いて自分で皮膚をつつく練習を行った。

セッション4 翼状針を用いて、実際に皮静脈に刺すことを行った。しかし、採血管への吸引が始めたと同時に手の震えと呼吸数の増加がおき、症例自身が中止して横になりたいと述べたため、中止になり、血液検査に必要な量は採取できなかった。

セッション5 前回の失敗から、血液が採血管に流入する場面を見ることが血圧低下反応を起こす刺激になっていることがわかった。最初に流入する動画を繰り返し見るようにさせた。応用緊張を十分に行い、動画を見ても血圧が下がらないとわかったところで、翼状針を用いて採血することを行った。今回は採血管への流入を見ることができ、血液検査に必要な量を採取することができた。職場に提出するための検査結果報告を手渡しして、治療終結とした。

考察

行動理論的にこの症例の症状を考えるとしたら次のようになる。この場合の症状はレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ、パブロフ条件づけとも呼ぶ)によって説明できる。

生物学的準備性:BIIの患者のほとんどが血管運動性失神反応(Vasovagal Reflex, VVR)を起こす。これには遺伝的背景がある(6)。出血や外傷刺激(Unconditioned Stimulus, US)に対する反応は無条件反応(Unconditioned Response, UR)である。VVR自体は人間以外の動物にもあり、外傷を受けたときに出血死を防ぐことができる、自然選択上有利な生理的反応であるとされる(7)。質問8 動物でも不安を持つか?と聞かれれば当然イエスである。

質問2:正常と病的不安の区別に対しては、BIIの場合、区別できないということになる。進化の過程でVVRという防衛手段を動物が身につけたとき、毎年健康診断で10ccの血液を採られることまでは考慮していない。

条件反応:一方で「血」という概念や言葉、連想させるニュースや映画に対する恐怖は条件づけられたものである。血などは条件刺激(Conditioned Stimulus, CS)、それによっておこるVVRは条件反応(Conditioned Response, CR)となる。とくにこの症例の場合、言語やイメージ、概念に対する条件づけが生じている。症例は通常の言語能力を備えた大人だったので次のようなことも生じた。

治療セッション1では、もともと「血」がCSであり、これによってCRとしてVVRが生じた。最初は「Blood」は中性刺激(Neutral Stimulus, NS)だったが、「血」の訳が「Blood」であることを教示すると、「Blood」と実際の血液画像の提示をしなくても、ただちに「Blood」でVVRが生じるようになった。これは言語を持つ人間に特有な認知機能、刺激等価性(8)による現象である。刺激等価性があるおかげで人間はCRを起こす言語刺激を無制限に増やすことができる。

治療手続き:エクスポージャーによってCRは消去でき、ニュースや動画を避けずに見ることができるようになった。しかし、UCRであるVVR自体は消去ができない。このためVVRに対する拮抗反応として応用緊張をトレーニングした。必要な時には自ら血圧をあげられるようにすることで、採血のように外傷が生じることを予期できる場面では失神を起こさず耐えられるようになった。

まとめ

行動理論にとっての不安

先ほどのBIIの症例に関する考察では質問文以外には不安や状態という言葉を一切使わなかった。行動理論にとっては「不安」という言葉が指し示す具体的な行動や反応が大切なのであって、不安自体にはあえて取り上げるような意味がない。行動を具体的に取り上げていけば、BIIにおける「不安反応」に対して、他の一般的な不安に対する対処法として行われるようなリラクセーションや深呼吸はむしろ有害であり、マインドフルネストレーニングも無意味なことがわかる。概念や言語、イメージのかかわりはあり、それは認知的過程と呼ぶべきだろう。しかし、刺激等価性が生じるような言語刺激の特異性はいわゆる認知理論で取り上げられることはない。徹底的行動主義の立場に立つ行動理論家にとっては頭の中で生じる概念やイメージも刺激と反応、随伴性の枠組みで説明することができる。この結果、不安とはそもそも何か?評価をどう生かすのか?などといった質問を不問にしたまま治療を進めることができる。

では行動理論はどのくらい使われているのか?

精神療法の数をWikipediaで数えると200近くある。アメリカ心理学会の心理療法部門(Division29)の2500名以上のメンバーを対象とした主たる理論的背景についてNorcrossらが調査した結果を表2に示した(9)。精神力動的と統合的アプローチを合わせると60%程度になる。30年間にわたってこの割合には変化がない。認知的アブローチが年を追うごとに増加し、行動的は減ってきている。

 

表 1. アメリカ心理学会心理療法部門会員における主な理論的背景(単位:%)

  1981 1991 2001 2012
精神力動的 27 33 29 32
統合的 30 29 36 25
認知的 8 10 16 17
行動的 6 3 3 3
人間主義的 7 11 6 9
その他 22 14 10 14

 

行動分析学事典のような立場をとる人は米国でも2,3%しかいない。行動理論の立場の人間に「不安のフォーミュレーションのとは?」と尋ねたくても、相手を探すのに苦労するはずだ。本特集で筆者に質問がまわってきたことは一種の幸運である。

改めてさまざまな学派が不安をどう理解しているかを見直すと、行動理論の立場が良くわかる。1986年に国立肥前療養所に就職し、山上先生から行動療法を学ぶようになった。当時は行動療法という言葉がやっと精神療法の一つとして末席を汚すことができるようになったころだった。今は認知行動療法に名前を変えて主賓席に座るようになった。行動療法もずいぶん出世したものだが、理論に関しては行動理論が認知理論に置き換えられただけのようにみえる。

著者自身を振り返る

今回、依頼していただいたおかげで、自分自身が「不安」「状態」を説明概念として使わなくなっていることに気が付いた。昔よりもその傾向は強くなっている。そして、神経症概念が解体され、不安障害になり、さらに不安症に名前を変えた現代でも、世間一般の常識自体はそう変わっていないことにも気づく。刺激等価性や派生関係のように言語行動に関する行動理論はずいぶん進化したのだが、それは「精神療法」の読者である普通の精神科医・心理士が理解できる範囲を超えているだろう。

行動療法は単なる技法ではない。行動理論はどこかの時点で確立され、変化を拒むドグマではない。どちらも進化を続け、変わり続ける知識に対するアプローチである。

参考文献

 

  1. 加藤敏, 神庭重信, 中谷陽二, 武田雅俊, 鹿島晴雄, 狩野力八郎, et al. 現代精神医学事典. 東京: 弘文堂; 2011. 1391 p.
  2. 氏原寛. カウンセリング辞典. 東京: ミネルヴァ書房; 1999. 692 p.
  3. Bellack AS, Hersen M, 山上敏子. 行動療法事典. 岩崎学術出版社; 1987.
  4. 日本行動分析学会. 行動分析学事典. 東京: 丸善出版; 2019. 839 p.
  5. Rachman S, Thordarson DS, Shafran R, Woody SR. Perceived responsibility: structure and significance. Behav Res Ther [Internet]. 1995 Sep [cited 2019 Jul 23];33(7):779–84. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7677715
  6. Sheldon R, Rose MS, Ritchie D, Martens K, Maxey C, Jagers J, et al. Genetic Association Study in Multigenerational Kindreds With Vasovagal Syncope. Circ Arrhythm Electrophysiol [Internet]. 2019 Jan [cited 2019 Jul 21];12(1):e006884. Available from: https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCEP.118.006884
  7. Wani A, Ara A. Blood injury phobia: an overview of gender specific brain differences. J Neurobehav Sci [Internet]. 2014 [cited 2019 Jul 22];1(3):82. Available from: http://www.scopemed.org/fulltextpdf.php?mno=169012
  8. Sidman M, Kirk B, Willson-Morris M. Six-member stimulus classes generated by conditional-discrimination procedures. J Exp Anal Behav [Internet]. 1985 Jan 1 [cited 2019 Jul 22];43(1):21–42. Available from: http://www.pubmedcentral.gov/articlerender.fcgi?artid=1348093
  9. Norcross JC, Rogan JD. Psychologists conducting psychotherapy in 2012: Current practices and historical trends among division 29 members. Psychotherapy [Internet]. 2013 [cited 2019 Jul 21];50(4):490–5. Available from: http://doi.apa.org/getdoi.cfm?doi=10.1037/a0033512

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