目的
強迫症(obsessive compulsive disorder,以下OCD)は強迫観念/儀式が本人の意図と関わりなく強迫的に生じるものである。子どもから老人まで幅広く見られ,症状は一過性ではなく長期にわたる。観念・儀式の内容は様々であるが,同じ思考や行動を繰り返し,生活習慣の柔軟性が損なわれる点で共通している。
2013年に刊行されたDSM-5においてOCDは強迫症および関連症群として拡張された。現在は醜形恐怖症やためこみ症,抜毛症,皮膚むしり症,物質・医薬品誘発性強迫症および関連症を含む。
原井クリニック(以下当院)は2019年1月にOCD専門クリニックとして開院した。薬物療法(ほとんどがSSRI単剤)に加え,曝露反応妨害法(ERP)を中心とした行動療法を行っている。さらに当院では短期間での治療を希望する者に対して,グループで3日間の持続的なERPを行う3日間集団集中治療(3 Days Intensive treatment:3DI)を提供している。
本研究は2019,2020,2021,2022年の報告に引き続き(金田ほか, 2020)(原井 & 松浦, 2021)(原井 & 松浦, 2022) (原井 & 松浦, 2023)、当院の2023年度の外来患者情報について調査報告を行うものである。地域や診療内容から、OCDの外来治療について検討することを目的とする。
対象と方法
2023年4月1日から2024年3月31日までの間に当院を受診した患者620人(男性283人,女性337人)。この期間の診療情報から年齢や性別、居住地域,主病名,治療内容を調べた。
倫理的配慮
当院のプライバシーポリシーとして,医療の質・パフォーマンスの改善のための基礎資料として診療情報を用いること,その際には個人を識別あるいは特定できない状態に加工した状態で用いることをHP上にて明示し、受診時に同意を得ている。
結果
患者の平均年齢は35.1±14.3歳、6から83歳であった。患者全体の年代別・性別の度数分を表1に示す。
表1
年代 | 男 | 女 | 計 |
0-9 | 2 | 2 | 4 |
10-9 | 39 | 34 | 73 |
20-9 | 92 | 84 | 176 |
30-9 | 71 | 84 | 155 |
40-9 | 39 | 72 | 111 |
50-9 | 20 | 31 | 51 |
60-9 | 16 | 25 | 41 |
70- | 4 | 5 | 9 |
620人のうち主診断がOCDである者は424人(68.3%)であった。新規の患者は289人、そのうち主診断がOCDである者は182人(62.9%)であった。
OCD以外の不安症、OCD関連症について調べた。醜形恐怖症や皮膚むしり症、抜毛症はほとんどの患者がOCDを合併していた。一方、パニック症でOCDを合併しているものはなかった。次に診断分類別患者数を年次で示す。
表2 OCD以外の診断
‘19 | ‘20 | ‘21 | ‘22 | ’23 | |
醜形恐怖症 | 1 | 7 | 13 | 22 | 25 |
皮膚むしり症 | 0 | 1 | 3 | 12 | 11 |
チック症 | 0 | 6 | 10 | 14 | 20 |
抜毛症 | 0 | 10 | 1 | 0 | 6 |
社交不安症 | 14 | 8 | 14 | 23 | 23 |
パニック症 | 10 | 3 | 3 | 10 | 12 |
注意欠如多動症 | 20 | 21 | 26 | 30 | 35 |
限局性恐怖症 | 6 | 2 | 2 | 2 | 5 |
皮膚むしり症の病名はICD-10にはない病名である。2020年度から独自病名としてつけるようにした。社交不安症についてはコロナ禍とそれ以降では違いがある。診断全体では22年と23年には大きな変化はないが、チック症の診断が増加していることがわかる。
620人の住所地方別を表3に示す。比較のために2022年度のデータも示した。
表3 住所別患者数
2022 | 2023 | |||
全体 | 新規 | 全体 | 新規 | |
東北以北 | 12 | 6 | 10 | 5 |
関東 | 490 | 256 | 547 | 338 |
中部 | 37 | 15 | 39 | 23 |
近畿以南 | 16 | 10 | 20 | 16 |
東北以北を除いて、どの地域からも患者数が増えていた。外国籍の患者は24人だった。このうち15人は新規の患者であった。2022年度は14人で、11人が新規であった。外国籍の患者も増加した。
3DIに参加した者は49人であった。OCD以外に社交不安症、醜形恐怖症の患者も参加していた。
2022年度は参加数が62人であったので13人減少した。ただし、10代に関しては2022年度は11人であり、2023年度は1人増えた。
家族相談が41例、セカンドオピニオン受診が35例あった。心理士による個人カウンセリングは151例あった。2022年度はそれぞれ、37、14、85例であったので増加した。
パニック症に対しては内部感覚エクスポージャーのセッションを行っている。2023年度では1例に対して行った。
薬物療法に関しては620人中、453人に対して行った。主診断がOCDである424人中では365人に対して薬を処方した。3DIに参加した49人中、41人が薬物療法を受けていた。この中に他院から処方されていた患者が含まれる。
3DIに参加した者は49人であった。OCD以外に社交不安症、醜形恐怖症の患者も参加していた。3DIに参加した患者の年代別ヒストグラムを表4に示す。49人中、41人(84%)が薬物療法を受けていた。
3DI後のフォローができた44名について治療前後のY-BOCSの評価を行った。治療前は平均24.8(SD4.6)点、治療後は12.6 (SD4.5)点であった。
3DI後のフォローができた44名のY-BOCSの結果を不変と反応、軽快に分け、年代別に示した治療成績を表3に示す。
表3 年代・薬使用別治療成績
不変 | 反応 | 軽快 | 総計 | |
SSRIなし | ||||
10代 | 1 | 1 | ||
20代 | 1 | 1 | ||
30代 | 2 | 2 | ||
40代 | 1 | 1 | ||
50代以上 | 1 | 1 | ||
SSRIあり | ||||
10代 | 1 | 9 | 10 | |
20代 | 2 | 10 | 12 | |
30代 | 2 | 8 | 10 | |
40代 | 3 | 2 | 5 | |
50代以上 | 1 | 1 | ||
総計 | 2 | 7 | 35 | 44 |
考察
本調査はOCD専門クリニックにおける診療実績について検討することを目的としていた。過去4年間の報告と比較すると次のような特徴がある。
- 新規患者数404→231→250→287人→386人
関東地方以外からの患者数は84→26→29→31→44人であり、増加してきている。一方、東北以北からの患者数は伸び悩んでいる。 - 英語によるやりとりが必要な外国籍の患者が増加した。
- 3日間集団集中治療参加者数72→47→49→62人→49人
2022年度の開催回数は11回であったのに対し、23年度は9回であった。 - 診断の比率には大きな変化はない。醜形恐怖症とチック症の増加が見られる。
- 3DIには患者の中でも重症のものが参加する傾向があった。性別で見たとき、29歳以下は男性20人、女性6人で、男性が圧倒的に多かった。
- 3DIの治療成績はいままでと同様である。不変の患者はSSRIを使っていた群に多かった。
引用文献
原井宏明, & 松浦文香. (2021). 強迫症専門クリニックにおける診療実績 原井クリニック1年間の診療実績. 日本認知・行動療法学会大会プログラム・抄録集, 47回, 314-315.
原井宏明, & 松浦文香. (2022). 強迫症専門クリニックにおける診療実績 原井クリニック1年間の診療実績. 日本認知・行動療法学会大会プログラム・抄録集, 48回, 329-330.
原井宏明, & 松浦文香. (2023). 強迫症専門クリニックにおける診療実績 原井クリニック1年間の診療実績. 日本認知・行動療法学会大会プログラム・抄録集, 49回, 365-366.
金田翔太郎, 四方陽裕, & 原井宏明. (2020). 強迫症に対するERP専門クリニックにおける外来患者調査 原井クリニック1年間の診療実績. 日本認知・行動療法学会大会プログラム・抄録集, 46回, 185-186.