草稿 抵抗に遭わない面接技法! 動機づけ面接の基礎と実践 子どもの健康科学 10(2), 3-7, 2010-09

抵抗にあわない面接技法!動機づけ面接の基礎と実践

なごやメンタルクリニック 院長 原井宏明

1.エビデンスに基づく心理的介入法

精神科医である私が動機づけ面接に出会ったきっかけは、薬物依存症やアルコール依存症への取り組みでした。精神科医で薬物依存に深く関わる方は多くはありません。私は20年以上そうした患者さんも診てきましたが、そこでは主に行動療法を活用してきました。そのせいで私は今でも薬剤を出さない診療をしています。出してもせいぜい2剤です。

ではそのような私がなぜ動機づけ面接を使うようになったのでしょうか。それは動機づけ面接が、エビデンスに基づいた療法だからです。アルコール依存症の治療にはどの方法が効果があるのかを調べる研究がありました。当時、アルコール依存症の治療に効果があるとされていたものに、12ステッププログラム、認知行動療法がありましたが、より高いエビデンスを示す研究法であるRCT(ランダム化比較試験)で効果を検証するために、もう一つの比較群として、その2つの療法とは異なるアプローチの療法として選ばれたのが動機づけ面接でした。その3つの療法による治療の違いを調べた結果、3つの療法のアウトカムに大きな違いは表れず、3つとも効果があるということが確かめられたのです。それがきっかけとなって、動機づけ面接の独自性が認められて広く活用されるようになり、減量をなかなか実行できない生活習慣病の患者さん、心配ごとばかりで毎日がつらいと訴えるクライアント、毎日の服薬を忘れがちな患者さん、などにも効果があることが実証されてきました。

このように動機づけ面接は、何かの権威や天才的セラピストが思いついたものではなく、あるいは最新の・最先端の心理学理論や脳科学から降って下りてきたものでもなく、コントロール群を使った研究、すなわち、これを使った場合と使わない場合とを比較した、地道な実験的臨床研究から編み出されたものなのです。

2.動機づけ面接の5つの原則

医療に携わる皆様は次のような場面に出会いますね。

・理屈では分かっているのに禁煙できない

・治療が大事と思っているけど毎日するのは面倒

・母親だけ熱心、子どもは無関心

・自覚症状がないので治療に協力的でない

・正しい指導をしても抵抗にあう

・家族の世話になって生きている意味は無い

・いけないと分かっていても虐待してしまう

このような場面に出会うと「どうしてこの人はかわらないのか」という気持ちを抱くでしょう。動機づけ面接はそこで効果を発揮します。動機づけ面接は「相手の考え方や行動が変わることをうながす」技法です。治療に協力的でない患者さんは、協力しない理由をたくさん言います。私たちがそれをその都度否定しすれば、さらに抵抗は強化されていきます。人間はそのようにできているのです。そこで、相手が取るべき行動をこちらから告げるのではなく、本人から口にするように促します。そのためのテクニックをマニュアル化したものが動機づけ面接です。そこには次の5つの原則があります。

①共感

②矛盾を広げる

③言い争いを避ける

④抵抗を手玉にとる

⑤セルフエフィカシー(自己効力感)をサポートする

一般的には、共感は「相手と同じ感情を経験する」ことですが、動機づけ面接ではそうしようとうすることがむしろ共感の妨げになると考えます。動機づけ面接における共感とは「相手の感情・思考・価値観を、隠された部分まで含めて正確に言葉にすること」です。

例えば「死んだ方がまし」と言う患者さんに対して、「死にたいということ?」と単純に聞き返したり、「夜寝たら、そのままずっと目が覚めなければいいのに、という気持ちですか?」と聞いていくことで、患者さんはさらにくわしく話したり、「そうではなくこういう気持ちです」と訂正することができ、やがて隠された気持ちや抵抗、非健康的な行動をそのまま具体的な言葉にしていくことができます。これが動機づけ面接における共感です。

共感をしながら面接を続けていくと、相手は言い訳などのために矛盾したことを言うことがあります。それを否定したりするのではなく、あえて増幅して極論にしていくと、言われた方は訂正をしたくなりますから、「いやいやそうではなくて」、「そこまでは思っていません」と語りながら、自分の現在の言動と、本来すべき言動の食い違いへの気付きが促されます。極端な例を提示されることで同意も否定もしやすすくなり、さらに自分の気持ちを述べようとするものなのです。そのようなやり取りを繰り返すことで、やがて本来こちらが望んでいることを自ら語ることになるのです。

このような関わりによって、権力闘争を避けることができる、クライエント自身が決断する、変化の実行責任はクライエントにある、変化の過程に対してクライエントがより強くかかわる、というメリットが得られることになります。

図 抵抗を手玉にとるの例

種類
クライエント カウンセラー
・単純な聞き返し 酒は止めたくない 酒を止めたくないのですね
・増強した聞き返し 酒は続けたい 一生飲み続けたいのですね
・両面性をもった聞き返し 死んでも酒は止めない 酒は命より大事だと。その一方,今日は酒屋ではなく病院に来られている。
・フォーカスをずらす なんと言おうと,どう説得しようと,私の酒は止められないぞ 私がさっきから酒を止めろと言っていると?止めるかどうかはあなた次第です。これからどうしたいと思っているか話してください
・ひねりを効かして同意する 家族のせいで止められないのだ そう,家族の協力が酒を止めるのに必要だと気がついたのですね
・本人の選択とコントロールを強調する どうしたらいいのかわからない そう,酒を今のまま続けるか,減らすか,あるいは止めるか,あなたが考えて決めることです
・リフレーミング 自分だけでは,どうしたら良いのか,分からない 専門家のアドバイスが欲しい,ということですね
・治療的パラドックス まだしばらくは,飲み続けても大丈夫なはずだ 飲む量を増やして試すということもできます。

3.相手のチェンジトークを導く

動機づけ面接では、相手が自分のことを自分の言葉で語るようになり、最後には自分を変える具体的な計画を話すように促しますが、それがうまくいくと次のような反応が得られます。これらをチェンジトーク(DARN-C)といいます。

①Desire 変化の願望

変わりたいと言う願いを話す。

②Ability 変化できる能力

変えることができる、前にもできた、これからもできると言う。

③Reason 変化する利点

変化することでよい結果がもたらされると言う。

④Need 変化する必要性

現状の問題点、現状維持を続けることへの懸念を言う。

⑤Commitment コミットメント・関与・約束

変化するために必用な行動の具体的な計画を言葉にする。

アルコール依存症の患者さんが断酒する確率と、これらのチェンジトークが面接で出てくる比率が相関していたという研究結果があります。面接の最後にCが出ていた患者さんは断酒する確率が高まるのです。どのようにしたらチェンジトークを導くことができるのでしょうか?

チェンジトークが出てこない場合を考えてみましょう。それは患者さんの抵抗が続いているということです。治療や指導がうまくいかないと、「患者のやる気がないせいだ」などとすることがありますが、そのような、患者が治らなかったら患者のせい、患者がなおったら治療者のせい、という考えはおかしいですよね。動機づけ面接の研究では、どういう患者が悪化するのか、ではなく、どういう場合に患者は抵抗するのかをみてきました。セラピストがどういう発言をすると、クライアントがどうなるかを分析したのです。すると抵抗が続くのは、カウンセラーがクライアントに要求をしている場合であることが分かりました。

ベテランの医師や看護師長のような指導的立場にある方ほど、正しい指示・指導をたくさん知っている方ほど、要求返しの罠にはまります。要求返しというのは、相手の要求に要求で答えることです。しかし要求は相手の要求をさらに強めることになるのです。次の例でも実は医師は要求返しをしているのです。

患者:どうせ先生は、俺が酒をやめられるなんて思ってないんだろ

医師:まあ、そんなこと言わずに。私はあなたが酒をやめられると信じていますよ。あなたには自分を変える力があるはずです。

(自分の力に気づきなさいという要求)

患者:じゃあ、どうやって俺の酒を止められるわけ

医師:なぜ飲むのをやめられないか、あなたが自分で語るようになれば、やめられるのですよ。

(やめられない理由を語りなさいという要求)

患者:なぜ飲むって、飲まずにいられるかよ。こんな世間知らずに何がわかる

例えば「私は話し合えたらお互いうれしいのかなあと思っているだけなのですよ」という表現も、婉曲ではありますが要求の機能を持っています。単刀直入に言えば「話せ」という要求なのです。

スタッフに指示を出したり、患者さんに療養法を指導することが日常生活習慣になっていると、実は自分が要求をして相手の抵抗を強化していることにはなかなか気付きません。しかし指示や指導が正しければ正しいほど、反論できなければできないほど、相手は抵抗するのです。

図 要求の例

・やめろ要求

そんなこと言うな。するな。

・やりなさい要求

話せ(どうしたい?なぜ?)。取り組め。向き合え。

・よい雰囲気にしようよ要求

あなたが来たことがうれしい。ここに来たこと自体がよいことだ。

別の気楽な世間話をしよう。

・気づきなさい要求

君には本当は話したいことがあるのだ。本当はつらい思いをしているのだ。

本当は困っているのだ。本当は酒をやめる力があるのだ。

4.動機づけ面接を使えるようになるには

動機づけ面接は日常の様々な会話の場面で応用することができます。本人の言っている矛盾を広げるというだけでも効果が得られます。私はよくかかってくるマンションの営業の電話に、動機づけ面接で対応することで練習をしています。例えば次のように。

営業:是非お薦めしたいよいマンションのご案内でお電話させていただきました。

自分:買ってくださいということですね。(聞き返し)

営業:それは先生のご判断ということですが、とてもよい物件があるのです。

自分:お値打ちのよい物件があるということですね。(増幅した繰り返し)

営業:でもお住みいただくということではなくて…

自分:投資目的ということですか?

営業:そうなのです。ご存知のように将来年金が減っていくということがありますね。

自分:そちらのマンションを買うと年金が補填されるのですか?(増幅した繰り返し)

営業:そうでもないのですが税金のこともあるし…

自分:買えば損にならない、税金、年金対策、将来の収入の足しにもなるということですね(サマライズ)

営業:いや、でも投資ですからリスクもあります。

このように、通常営業マンが口にしてはいけない事実を、営業マン自らが口にしてくれました。

今回お示ししたのは動機づけ面接の導入部分ですが、関心をもっていただけましたでしょうか。さらに学習してみたいという方のためにはDVDや参考書もありますが、そうしたもので理論を学んでいただいた後は、自転車も実際に乗って何度か転びながら乗れるようになっていくように、実際に使ってみて、失敗もしながら身に付けていくことで、日常のあらゆる場面で効果的に使いこなせるようになってきます。

今後の学習のために

参考資料

日本語のMIのホームページ

http://homepage1.nifty.com/hharai/mi/index.htm

日本語のMI関連の資料

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35 Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment 翻訳

http://homepage1.nifty.com/hharai/TIP/35/tip35_chap1.html

書籍

ステファン ロルニック,クリストファー バトラー, ピップ メイソン, 健康のための行動変容―保健医療従事者のためのガイド,地域医療振興協会公衆衛生委員会PMPC研究グループ (翻訳),法研

ウィリアム. R, ミラー, ステファン ロルニック. (2007). 動機づけ面接法 (松島義博 ,後藤恵, 訳). 東京: 星和書店.

DVD

『動機づけ面接 トレーニングビデオ日本版』[導入編]・[応用編] 製作著作・原井宏明

入手はメールでocd2004@gmail.comまで。送料込[導入編]2,000円、[応用編]4,000円。送付はOCDの会(強迫性障害の患者・家族の会)が担当

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