草稿 私の治療(23) 精神疾患 強迫症(強迫性障害) 日本医事新報 2019 掲載予定

強迫症(強迫性障害) 小児・成人 疾患の概要

疾患メモ

強迫症(強迫性障害、OCD)は強迫観念と強迫儀式(行為)によって特徴づけられる。強迫観念とは反復的かつ持続的で,患者自身の意思に反して侵入的に生じる思考や衝動,イメージである。強迫観念を軽減/回避するために,患者が行わざるを得ないと感じる反復的行動や心の中の儀式が強迫儀式である。従来は不安症の一つとされていた。現在では、不安よりも嫌悪感や後悔感情、道徳感情と結びつくことが多いこと、抗不安薬が無効であること、認知行動療法(CBT)の一つ、曝露反応妨害法(ERP)が有効であることなどを理由に、醜形恐怖症やためこみ症、皮膚むしり症などと合わせて強迫関連症群としてまとめられるようになった。人口の2~3%がOCDに罹患する。うつ病との合併はよくある。統合失調症との合併は一般人口の場合と変わらない。チック障害の合併も多い。逆にチック障害の大半はOCDを合併する。

診断のポイント

慢性疾患であり、病歴把握が診断に役立つ。潔癖症や加害恐怖、戸締まり確認のように一般によく知られているタイプで、患者の自己診断も一致している場合は診断が容易である。

私の治療方針・薬と行動処方

OCDはCBTと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によく反応し、重症の場合でも過半数の患者が学業や就労など自立した生活を行えるようになる。そのためには治療が適切であること、患者と家族の側にCBTを行う動機づけがあることが必要になる。

もっともよく知られているOCDは不潔・感染に関わる観念と洗浄儀式である。次が他者への加害や犯罪など社会的タブーに関する観念と免責されることを求める確認儀式である。患者や家族向けのセルフヘルプマニュアルがあり、こうした本を一緒に読み進めることはCBTの一つ、読書療法である。

他に順序や整理整頓に対するこだわり、ルールに対する過度な服従行動がある。これらの強迫観念は「そうしなければならない」のような義務感とその義務を達成したときの満足感が伴っていることが多く、SSRIの効果が乏しい。このタイプのOCDは高学歴であることが多く、こだわりやルール服従行動のおかげで成功してきたと考えることが多い。このタイプに対するERPは何事も中途半端で適当に行い、「もやもやしながら次の行動にうつり、それもまた適当に済ませる」という体験である。

患者が医学的な保証を求める場合があり、この場合巻き込まれるのは医師自身である。「まだ医学が解明していない未知の病原体に感染しているのではないか?」、「ガラスの破片の針が心臓に刺さるのではないか?」、「私は本当は統合失調症ではないか?」などがある。このような場合、医学的な保証を与えること自体が巻き込まれることになり、やり始めると医師自身が疲弊することになる。

治療の実際

就学前から学童期

一手目 家族に対する心理教育を行う。症状のセルフモニタリングを家族で行ってもらい、親が近くにいないときのほうが強迫行動が少ないことを親自身で気づくようにする。本人に対しては強迫観念を「詐欺師」のような本人に分かる言葉で喩えて、強迫観念に対して言い返したり、無視したりができるようにする。この時期のOCDの大半は成長や人間関係の広がりとともに他の強迫に変わったり、消えたりする。OCDは統合失調症発症のリスク因子ではないことを説明する。
二手目 レクサプロ®10mg1日1回、フルボキサミン50mg錠1日2~3回など。

思春期・青年期

一手目 思春期以降に発症したものは成人後にも続くことが多い。心理教育では将来の維持治療の必要性を含めるようにする。この時期に十分なCBTが行えていれば、たとえ不登校の時期が1,2年あっても将来の大学進学や就労、結婚には支障がないことを説明し、本人の将来の目標が治療の動機づけになるようにする。セルフモニタリングによって観念が生じるきっかけと儀式が観念をかえって悪化させていることを本人自身で気づくようにする。勉強にも強迫が影響していることが多い。テストに対する解答の見直しを何度も繰り返す、教科書に書いてある内容をすべて理解しようとして読み直しを繰り返す、ラインマーカーで真っ赤にしてしまうなどがある。これらは勉強効率を落とし、成績低下につながる。勉強の仕方もCBTの対象である。
二手目 レクサプロ®10mg錠1から2錠、1日1回、フルボキサミン50mg錠1回2錠を1日2~3回など。

自立した成人

一手目 仕事のために時間を取れないことから薬物療法を希望することが多い。上記のSSRI以外にパロキセチン20mg錠1~2錠と10mg錠1錠、1日1回も使える。薬によって強迫観念は減るが、長年続けて習慣化してしまった儀式は変わらないことを説明し、読書療法をすすめる。
二手目 専門家による本格的なCBTを勧める。患者が希望すれば他のSSRIにスイッチする。

OCDのために引きこもりになった成人

一手目 たいていの場合、子育てに失敗したという罪の意識から、親が子どもの儀式を積極的に手伝うようになっている。最初に親に対する心理教育を行う。薬物療法は他と同じである。
二手目 専門家による本格的なCBTを勧める。

高齢者

70歳を過ぎてからOCDが目立つことがある。合併症に気をつけながらSSRIを投与する。日常生活が単調で時間を持て余していることが多く、それが儀式の反復につながっていることがあるので、日常生活の幅を広げるようにする。

読書療法の資料

原井宏明, 岡嶋美代. 図解やさしくわかる強迫性障害 : 上手に理解し治療する. 東京, ナツメ社, 2012

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