原井宏明(2012) 薬物依存と動機づけ 精神科, 20(3):268-274

依存症とは

依存症の問題とは何だろうか?はっきりしていることがある。文明があれば依存症の問題がある。プラトンは,18歳以前にワインを絶対に飲んではいけないと言う。旧約聖書は,手に負えない大酒飲みを石で撃ち殺せと命じる(申命記21:20-21)。

DSM-IV-TR(1)による依存症の診断基準の1つに項目(7)がある。

精神的または身体的問題が,その物質によって持続的または反復的に起こり,悪化しているらしいことを知っているにもかかわらず,物質使用を続ける。

ICD10でも同じような基準(6)を設けている(2)。

有害な結果をもたらすことが明白であるという証拠があるにもかかわらず,物質使用を継続すること。これは使用者が実際に害の内容や程度に気づいているか,気づいていたらしいときにも続けていることで明らかとなる.

依存症になった患者は,プラトンに禁止されても,石で撃ち殺されそうになっても使う,ということになる。使えるチャンスが訪れたとき,使った後に起こるデメリットを考慮すれば,使わないのが当然だと常識人なら思うはずの場面で,使う方を選ぶ。普段は常識人のように振る舞い,いざとなれば使う,このような人を見かけると,人は判断力が犯されている,と言う。「後で起こるデメリットは分かっている,分かっていて使うのだ,自分の体を害するだけで他人には迷惑をかけていない,それで何が悪い?」と言う使用者もいる。害が誰から見ても明らかなときでも,その害を無視して平然としている人に対して,私たちは,動機づけが足りない,という。

血中に存在する薬物によって脳が直接影響を受けている場合を除いて,乱用も含めて依存症とは物質使用者本人の判断や動機づけの問題と呼ぶことができる。

(中略)

最初から今日まで,MIは常識的な意味での判断や動機づけの概念をもたない。動機づけという概念を用いて,患者の心を理解することをしない。ある特定の技法を使えば,患者の問題が治るとも言わない。普通の精神療法とは対極的に見えるはずだ。さらに言えば,MIは常識的な医学モデルとは対極にある。1993年の論文でMillerはMIをこのように形容している。

This approach to client motivation departs radically from traditional “confrontational” methods that attribute denial to personality characteristics of the client, emphasize acceptance of the label “alcoholic,” and conceive of alcohol abuse as explained by personal loss of control.

一方で,RCTによるエビデンスはそんなMIが,普通にどこでもよく使われる精神療法になるべきだと主張している。それは,MIがある特定のやり方によって,習得可能な方法であり,技術レベルを測定できるからだ。指導者から学習し,実際に行い,指導者に技術をチェックしてもらうことができる。その点では動機づけ面接はごく普通の精神療法である。

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